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   A

 二月一四日。
 この日は女子生徒にとっても男子生徒にとっても重要な日である。
 女子はこの日までにチョコレートのお店や雑誌などで今年のチョコの流行をチェック、ある女子特別なチョコを求めお店を転々とし、またある女子は手作りチョコの試行錯誤に明け暮れる。
 一方男子はなにもしないかというと決してそんなことはない。
 女子が一四日に向けて動き出すのと同時にチョコ獲得のためのアピール作戦を開始する。
 髪をいじってみたり、慣れない香水をつけてみたり、体育で目立って女子の気を引いたりしてみたり、でもあくまでも「俺、チョコとか欲しくないし!」というスタンスは崩してはいけない。
 そして「そんなもう子供じゃねえんだからチョコとか興味ねえっての!」とわざと女子に聞こえるように言ってみたりする。
 だけどそういいつつもげた箱と机の中の整理は怠ってはいけない。
 少なくともチョコレート三つ分は余裕で入るくらいのスペースは必要だ。
 そのために普段は机の中に教科書を置きっぱなしの男子もこの日ばかりは無理矢理かばんに教科書を詰め込んだりする。
 とまあ、何はともあれ今日はバレンタインデーなわけである。
 そんな全校中から感じ取ることができるうきうきムードが一切発生しない場所が存在した。それがここ。保健室なのである。

 まふゆさんは保健室に入るなり、パソコンのディスプレイとにらめっこしていた。
 だけどそれは決してインターネットで『バレンタイン必勝法』という類のページを見ているわけではない。
 そして遅ればせながら『今年の流行はヘルシーで甘くない大人のチョコレート』なんて情報をチェックしているわけでもない。
「う……ん」
「ねえ、まふゆさん」
「う…………ん」
「ねえってば」
「う………………ん。あ!」
「そんなにやったら目悪くする――」
「やった! 見て見てシーナくん! ついにやったよ!」
 パソコンのモニターに移っているのは緑の画面上にトランプが四つ並び、そしてカードの束が画面上を上下している。
「まふゆさん。ソリティアばっかりやりすぎ!」
 これが悲しいかな二月一四日の保健室の現実である。
「いやあ、長かった。何回最初からやり直そうと思ったことか」
 女子高生というものはみんなバレンタインというイベントには敏感なものだと思っていた。しかしどうやらそれは僕の勘違いのようだ。なにせこの女子高生さんは保健室に来てからと言うもの一心不乱にソリティアに打ち込んでいたのだ。僕は思わずカレンダーを見直してしまった。けどどう考えても今日は二月一四日なのである。
「新記録だよ。新記録! これはスクリーンショットしてとっておかないとね」
 ちなみに彼女が使っているパソコンは保健室の備え付けのもの――ではなく、まふゆさんの自前のマシンなのである。
 時には学校の回線を無断で拝借しネットサーフィンに勤しみ、時には図書館で貸し出しているDVDや近所のレンタルDVDショップから借りてきたものを再生し、勝手に一人鑑賞会をしたりと、まあ放課後の理想のパソコンライフを送っているのである。ここが保健室であることをつい忘れてしまいそうになる。
 まあ、それにしてもバレンタインデーの当日、しかも放課後にソリティアなんかしなくてもよかろうに――。
「ねえ、まふゆさん。今日何日か知ってる?」
「ふぇ?」
 何でそんなこと聞くの? と今にでも言い出しそうな顔で僕をみつめるまふゆさん。
 あまりにソリティアの集中していたせいだろうが、愛用の銀縁メガネがずれて、彼女のぱっちりとした二重が露わになっている。
 彼女のこんな姿を見ることができるのは僕だけなんだろうな、と思うとなんだか嬉しくなって顔がにやけてしまいそうなんだがここは我慢する。
「何、シーナくんは私のソリティアより今日の日付に興味があるっていうの? ゆとり教育の弊害?」
 まふゆさんのソリティアに興味がないことは確かだが、ゆとり教育のせいにするのはどうなんだろう。
「えっと……今日はね。月曜日だから」
 まふゆさんは掲示板横にあるカレンダーをチェックしている。
 この様子を見るに本当に今日がバレンタインであることを本人は気づいてないようだ。今日一日学校生活を送っている上で気づかないっていうほうが難しいと思うのだが――。
「あ!」
 僕とまふゆさんは顔を見合わせる。
「シーナくん! 今日は、二月一四日じゃん!」
 どうやらやっと気づいたらしい。
「シーナくん今日はね」
「うんうん」
「煮干しの日なんだよ!」
 バレンタインデーなんて概念はもうこの世から消えてしまったんだろうか。そんなことを思いながら僕はただただ立ち尽くしていた。

 二月一四日は、煮干しの日である。
 二が「に」、一を棒に見立てて「ぼ」、そして四は「し」で「にぼし」という単なる語呂合わせから来ているらしい。全国煮干し協会が制定した歴とした記念日である。
 ということを僕はまふゆさんに熱弁された。
「なんてこと! 私は煮干しの日を忘れていたんだよシーナくん!」
 いや、もっと忘れちゃいけないことは世の中のたくさんあるんじゃない? 
 たとえばバレンタインとかバレンタインとかバレンタインとか……。
「今日が煮干しの日だとわかればソリティアなんてやってる場合じゃないよ!」
 彼女にとってのソリティアの優先順位が今の僕には理解できない。
「今日は味噌汁です」
「……は?」
 まふゆさんが日本語を話す能力が乏しいのか、僕が日本語を理解する能力が乏しいのか。どっちにしろまふゆさんがおかしなことを言っていることは確かである。
「今日は煮干しの日なので、煮干しを使って良いダシをとり、それを味噌汁にして、飲む!」
 わかりやすく言い直してくれたらしいが、それでもよくわからない。だれか通訳をお願いします。
「というわけで、買い出しに言ってきますのでシーナくんは留守番してなさい」
 そう言うやいなやまふゆさんはダッシュで保健室を後にしてしまう。ファミスタのピノみたいだな……と思ったがそれを本人に言ったところで伝わらないことは目に見えているので、この例えは墓場まで持っていこうと思う。
 ……まあ死んでるからもう墓場に行くことはないのだが。

     ***

「それじゃあ、さっそく作るよシーナくん!」
 小さなカセットコンロにステンレスの手鍋、パック入りの味噌に豆腐に増えるわかめ、そして袋に入った大量の煮干し――、これらがテーブルの上に所狭しと置かれている。
 一瞬ここが調理実習室に見えてきてしまうが、残念ながらここは保健室なのである。
「……で何をするつもりなの? まふゆさん」
「何するって味噌汁を作るの! 今日は煮干しの日だからね! 外野は引っ込んでて!」
 どこから持ってきたのかまふゆさんはエプロン姿だった。ピンクを基調にしたそれには真ん中に大きく福沢まふゆのイニシャルであるM・Hが描かれている。
 今時そんなエプロンテレビ番組じゃないと見られないんじゃなかろうか。たぶん小学校の家庭科の授業で作った奴をそのまま持ってきたとかそんなところだろう。
 ――ってわざわざエプロン取りに家にもどったのか。何だろう。このどうでもいいことに対するまふゆさんの尋常なまでの行動力。
 別に保健室にしなくったって……とは思うのだが、確かに外野には違いないので引っ込んでおくことにする。全国煮干し協会だって保健室で煮干しのダシを取ることは推進してないと思うよ。それにしても何だよ日本煮干し協会って。
「えーと」
 テーブルの上の材料たちを見ながら何か考えごとをしているまふゆさん。きっとまたろくでもないことを考えているに違いない。
「え……とシーナくん?」
「外野の僕である僕のことを言っているのかな?」
「うー、ごめんよー。悪かったよ。シーナくんは外野なんかじゃないよ。ゼネラルマネージャーだよう」
 僕の立場をより複雑にしていくのはやめていただけないだろうか。
「……それでどうしたね?」
「味噌汁ってどうやって作るの?」
 夢にしちゃあまりにもまふゆさんがいつも道理なのでこれは現実なのだろう。僕はいったん落ち着いて現実に立ち向かう準備をした。

 本当にまふゆさんは味噌汁の作り方を知らないようだった。どうやら何をやっていいのかわからずに途方に暮れているらしく、彼女の目には軽く涙が浮んでいる。
 なんでここまで完璧に材料を用意しておいてそれがわからんのだろう。
「スーパーに行ってね、お味噌汁作りたいんですけど! って言ったらね。店員さんがそろえてくれた」
 なるほど。優秀な店員さんもいたものだ。僕が店長だったらただのバイトからバイトリーダーに昇格させているだろう。
 ただ作り方を知らないとはその店員さんも想定外のことだっただろう。もし作り方まで教えていたとしたら、ただのバイトから契約社員まで昇格させているところだ。
「シーナくん作り方知ってるでしょ? 『味噌汁のシーナくん』って生前ではこの界隈をぶいぶい言わせてたんでしょ」
 より僕の立場が複雑化してくるのはもうどうにもならないらしい。
「残念ながら僕は『味噌汁のシーナくん』とは呼ばれていなかったのだよ」
 もちろんこの界隈をぶいぶい言わせてた覚えもない。
「なんだよー。シーナくんの泥棒!」
 どうやら「嘘つきは泥棒の始まり」を彼女なりに略したらしいが泥棒呼ばわりされたこっちはたまったもんじゃない。
 味噌汁のシーナくんとか言い出したのはまふゆさんだしね。それに本当に今更だけど何だよそのキャッチフレーズ。誇れる自信が全くないよ。
「そりゃ、味噌汁のシーナくんとは言われてないけど味噌汁がどういうものかっていうことぐらいはわかるよ。要はその煮干しでダシをとってだし汁を作ってそれに具を入れて最後に味噌を溶かすんだよ。たぶん」
「最後のたぶん、は気になるけどなんかそれっぽいね。さすがエグゼクティブプロデューサー!」
 また役職が変わった様子。もはや昇進したんだか左遷されたんだかよくわからないぞ?
「じゃあさっそく煮干しを――うう、シーナくん煮干しが睨んでる」
「はい?」
「煮干しが睨んでるって言ってるの! ほら見てみんなそろって私を見てるよ! ソリティアをクリアしたくらいで生意気な! って起こってるんだよきっと!」
 どんな小さいことで起こってるんだよ。煮干し達の間のソリティア事情はこっちは知ったこっちゃないよ。
「えーと、これでダシをとるんだったっけ? この睨んでるやつで」
 そうそう。その睨んでるやつで。
「えっと……ダシをとるっていうのは……何をすべき?」
 本当に何も知らないんだな。ここまで料理について知らないのに「煮干しの日」に対する執着心はどこから来るんだか。
「シーナくんダシっていうのはあれですか? お湯ですか?」
 お願いしますから日本語でお願いします。
「何を言ってるかはよくわからないけど、まふゆさんが思ってる通りにやればいいんじゃないですか?」
 こんな気楽なアドバイスができるのも僕が味見をすることがないからです。いやあ、生きてないって本当にいいものですね。
「よし、やってみる! 私やってみる! じっちゃんの名にかけて」
 まふゆさんのおじいさんまだご存命じゃ……。しかもそしておじいさんはアスパラ農家だって……。そんなに有名なのかアスパラ農家。
 そんなツッコミを僕がいう前にまふゆさんは腕まくりをしてこっちが見るからに用意周到な様子で煮干しを見ている。
「てやっ!」
 まふゆさんの挑戦が今始まる。

     ***

「はい、できたよ。シーナくん」
「……」
「どうしたのシーナくん。そんな黙っちゃって。家が燃えた?」
 別に家が燃えてるから黙ってるわけじゃない。というより家が燃えていたら黙ってるどころの騒ぎではない。
 問題は今、目の前に置かれているまふゆさんお手製の味噌汁にあるのだ。
「意外と簡単なのね。味噌汁って」
 得意げに(あまり豊かとは言えない)胸を張るまふゆさん。
 えっと、とりあえず、あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
 まふゆさんは材料をお椀に入れるだけいれてお湯を注いだんだ。
 な……何を言ってるのかわからないと思うが、僕も目の前で何が起こっているかわからなかったのだ。

 と、ここでまふゆさん流味噌汁のつくりかたを振り返ってみよう。
 スプーン山盛り一杯味噌を器に入れたと思ったら、豆腐を切らずに投入、そして山のように増えるわかめを盛ったと思ったら、そこに煮干しをばらまき、ポットでお湯を注ぐ。これでおしまい。ザッツオール。
 そういうつくりかたをすると……決して人には見せられないであろう一品ができあがるのです。ご家族からうめき声が聞こえること間違いなしです。ぜひおためしあれ!

「それにしてもなんで店員さんは鍋とコンロまで私に勧めてきたんだろうね」
 まさか店員さんもまったく調理器具を使わずに味噌汁を作るとは思うまい。というかその店員さんにはこんな結果を見せられないな。悲しみに埋もれて寝込んでしまうことうけあいだ。
「えっとさ。まふゆさん? まふゆさんはこのできあがった味噌汁(らしき何か)を見て何とも思わないのかい?」
「んにゃ?」
 どういうこと? と言わんばかりにまふゆさんは首をかしげて見せた。どう見てもこれは自分の作ったものに対して何も疑問を抱いていない様子。
「ん、じゃあいただきます! えへへ、ごめんねシーナくん。シーナくん食べられないのにねー。へへへん」
 いたずらな笑顔を浮かべているようなのであるが、僕にとってはそれが天使のほほえみにさえ見える。ものを食べられない体で本当によかった。
「でわ」
 まふゆさんは切られていないでろんでろん状態のわかめを箸でつまむとゆっくりと口元へと運ぶ。
 そしてはむっとわかめに噛みつく――あ……やっぱり。まふゆさんの顔はだんだん青ざめていく。
 それからというものその味噌汁(らしきもの)は二度とまふゆさんの口に運ばれることはなかった。

「ただいまー」
 味噌汁らしき何かをまふゆさんが始末し終わったころ、保健の塙先生が部屋に入ってきた。
「あれー。なんだか味噌のにおい……」
 くんくんくん、と塙先生は部屋の中のにおいを嗅いでいる。やっぱり彼女はマイペースだなっていつも思う。普通の保健の先生だったら食べ物のにおいがするだけで今頃お説教タイムに発展しているかもしれない。
「そしてこの材料……」
 テーブルの上の食品の数々を見て、はっと何かに気づいたように先生は口を開いた。
「そうか! 今日は煮干しの日なのね!」
 このバレンタインのほっとかれっぷりには聖ウァレンティヌスもびっくりだな!

     ***

「煮干しはね。だしをとるまえに頭と内蔵をとっておくの。そうすると臭みがとれて上品なだしがとれるわけ」
「先生すごいや! 何でも知ってるとは思ってたけど料理も上手なんだね! さっさと嫁に行け!」
 毎度のことながら一言よけいだよ?
「うぅー。努力しますー」
 アヒル口でふてくされながらも先生は手慣れた様子で味噌汁を作り上げていく。
 さっきのまふゆさん作の味噌汁(らしく何か)とは大違いのおいしそうな味噌汁がみるみるできあがっていく。
 ちなみにあの味噌汁(らしきもの)は今頃学校の近所で飼われている犬の餌になっていることだろう。犬が食べてればの話だが……。僕が犬だったら飼い主にかみついてまで食べることを阻止するね!
「はい、上手にできましたー」
「うわ、本気でおいしそうじゃん。まるで『しゅうとみとく』だね!」
 せめて日本料理の人で例えてやれよ。
「うーん、『とみとく』よりも『とみてる』の方がいいかなー」
 先生の妙なこだわりもよくわからないしね! 兄弟でそこまで差があるのかな!
「いっただきまんもーす」
「はい、いただきまんもす」
 たぶん二一世紀には絶滅しつつあるであろう食事のあいさつで二人は味噌汁をすすりはじめた。せめて先生は普通に食べてほしかった。
「うめっ! インスタントの五〇〇倍はうめっ!」
「そうでしょ。ちゃんとだしをとるとここまで違うのよ。覚えておいてねまふゆちゃん」
 きちんと作られた塙先生作の味噌汁はおいしそうに湯気を立てていて見るからにうまそうだった、くぅう、今ばかりはものをたべることをできないのが悔しすぎる。
 ああなんて切ないのだろう。そんな僕を見ていたまふゆさんが僕に「ごめんね」と片目をつぶる。
「けどさあ。まふゆちゃん。今日二月一四日は煮干しの日だけじゃないでしょう?」
「あ……うん」
 恥ずかしそうに、こくっと小さく頷くまふゆさん。なんだ知ってるんじゃないか。今日がバレンタインデーだって。
「誰かチョコレートをあげたい人がいるんじゃないの?」
「う……そんなこと……ない……けど」
 塙先生は笑いながらゆっくりと頷いている。まふゆさんの顔が真っ赤なのだ。もうこれは話をきくだけ野暮ってやつだ。

 下校の時間が近づくと塙先生はこれまた手慣れた手つきで食器類を片づけるといつものように鍵をまふゆさんに預けて自分は先に保健室を出てしまった。まふゆさんを相当信用しているんだなっていつも思う。
「おいしかったよ。味噌汁」
 先生が職員室に戻ったのを確認してからまふゆさんは僕に話しかけた。
「うん、見るからにおいしそうだったもんね、あの味噌汁。いい煮干しの日になったんじゃない?」
「うん、そうかも」
 いつものように帰る支度をしだすまふゆさん。すると、スクールバックから何かを取り出して僕へと差し出してきた。
「ん!」
 彼女が何も言わずに差し出したのはチョコレートだった。
 チョコレートといっても売っている食用のそれではなく、フェルト生地で作られた板チョコだった。
 あの味噌汁(らしきもの)を作ったのと同じ人が作ったとはとうてい思えないほど、それはとてもきれいに、そして可愛らしく作られていた。
「あげる。ここおいておくからね」
 そう言ってまふゆさんは窓のサッシに布製チョコをたてかけた。
「……ありがとう」
 それしか言葉が出なかった。本当はバカみたいに騒いで喜びを表現したかった。だけど感激のあまり言葉が出てこないのである。
「こんなことしかできないけど」
「十分すぎるよ。本当にありがとう」
 彼女を抱きしめたい、僕はそう思った。
 僕がちゃんとした人間だったら彼女を抱きしめて感謝の気持ちを表せたかもしれない。そもそも布で作ったチョコじゃなくてちゃんと食べられるチョコレートを彼女としっしょに食べることができたかもしれない。そしてホワイトデーにちゃんとしたお返しができたかもしれない。
「じゃあ私行くね」
 いつもと同じように戸締まりと暖房を消したことを確認すると僕に手をふって保健室を出て鍵をかけた。
 一人保健室に残された僕はただひたすら彼女にもらったチョコを見つめていた。
 目に焼け付けてやろうと思った。
 それがただ僕ができる精一杯のことだった。自分ができることはこんなことしかないのかと思うと悲しくなった。
 だけど当然ながら涙なんて出るわけがなかった。

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